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悪人 By吉田修一

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♦︎悪人(上)(下) By 吉田修一

 

あらすじ:九州地方に珍しく雪が降った夜、土木作業員の

清水祐一は、携帯サイトで知り合った女性を殺害してしまう。

母親に捨てられ、幼くして祖父母に引き取られた。

ヘルス嬢に真剣に恋をし、祖父母の手伝いに明け暮れる日々。

そんな彼を殺人に走らせたものとは、一体何かー。

 

(下):馬込光代は双子の妹と佐賀市内のアパートに

住んでいた。携帯サイトで知り合った清水祐一と

関係を持つようになり殺人を告白される。自首しようとする

祐一を引き止め、一緒にいたいと強く願う。

光代を駆り立てるものは何か?

 

作品概要:2007年に出版。2008年度本屋大賞第4位。

2010年に映画化。同年に英訳版「Villain」が出版された。

社会的フィクションストーリー。性的な内容含まれます。上下あわせて520ページ前後。

 

著者吉田修一

1968年長崎県生まれ。他作品「パレード」、「パークライフ」、「静かな爆弾」「怒り」「横道世之介」など多数。

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ含みます!⚠️

 

感想:読みきった後、ずっと興奮してました。

とりあえず、端的に表すと、苦しい、辛い、しんどい!って感じでした。

タイトルにもなった、悪人っていうのが、もちろん

この小説の主題なのですが、読み終わったあとに、

このタイトルがいかに深いか、含みをもっているかってことを

思い知るんです。

ストーリーの構想や、登場人物の心理描写、気持ちの変化、トラウマを

抱えるキャラクターの思考などが

かなり鮮明に表現されていて、この作品の

魅力にひとつかなあと感じます。

まるで、自分のとなりに、清水祐一が存在しているかのような

別の意味の親近感っていうものが構築されました。

個人的な解釈なので、著者が意図するものと

違うかもしれませんが、

本当に悪い人ってどういう人?って

自分の中にあった基準というものが曖昧になりました。

そして作中で、登場する人物はあえてでしょうか、

皆、それぞれ短所があり、

他者から見て受け入れられない思考をもっていたり、

何かしら、過ちを犯していることが読み取れました。

自分自身も含めて、人はみな心に「良」と「悪」を

もって生きているという観点について

作品を通して、その良とはなにか、悪とはなにかという

疑問を読者になげかけているのでは?ないかと

考えます。

被害者である佳乃が友人についた嘘や、家族・祐一をはじめ

他人への態度は、なかなか許しがたいです。

増尾の自己を過大に誇張し、他者への配慮、共感、感謝ができない

点は、人生においてもったいないと感じますし、

佳男への態度について振り返ってみれば、

あまりに自分勝手で、とても憤りをかんじます。

(この作中では彼のいいところがあまり書かれていないため、始終、ずっと増尾への嫌悪感を抱きながら、話をよんでおりました・笑。スパナで少しぐらいやられるくらいすればいいのにと思っていました。。><ダメダメ)

こういった、彼らの日常的な「悪」というのは、

程度の大小はあるものの、人をときに傷つけてるかもしれません。

対して、

とても興味深いのが、清水祐一というキャラクターで

語られた、「悪」についてです。

佳乃を殺害するに至った点はもちろん、許されません。

殺人は間違っています。誰にも、人の命を奪う権利などありません。

ただ、祐一について、無愛想ながらとても思慮深く、愛情深いことがわかります。

祖父母の送迎をし、毎日真面目に仕事に出向き、

自分を捨てた母にも会っています。

母にお金をせびっていたとありましたが、

なぜだろうとずっと疑問でした。

が、祐一が風俗嬢に語る場面で、

「どちらも被害者はなれんたい」といっていたことで

祐一の母への思いやりが伝わってきました。

双方が被害者にはなれない。

だから母が、子供を捨てたと罪悪感に苦しみ

負い目を感じながら日々を過ごすことが

少しでも軽減されるように、

お金をせがんで、自分を悪くみせ母が被害者になるよう

彼なりの考えだったかもしれませんね。

 

祐一と、光代。人って孤独には

勝てない。

どちらも、ずっと抱えて

生きてきたものが似ていたこと

が関係を築く上で大きかったでしょう。

祐一は光代のことを信頼し、彼女の幸せを

心から願っていたようにかんじます。

印象的な最後のシーンで、警察の前で

祐一が光代の首を締めますよね。

私は、光代を被害者にし

これからの光代の生活と未来を自分の未来と全てを

引き換えにして守るためだったと解釈しました。

祐一は殺人を犯したことに、死刑になったらどうしよう

と恐れていました。

そんな中で、さらに罪を重ねるような行動を警察の前で

とるということは、

刑への恐怖よりも、光代への愛が勝った心の変化だった

と思い、祐一の愛情の深さと、結ばれない2人への

悲しい結末に本当に心を打たれました。

最後の祐一の供述も、光代に自分のことを

待っていても幸せになれないと

認識していたのではないかととれました。

嫌いになって、被害者として

生きやすい生活へ導き、幸せに暮らしてほしい

と願っていたんだなあと、思いました。

一方、光代は、当たり前といえばそうですが

首を締められた事実と、供述をきいて

祐一のことを「悪人」だったと思っちゃうんですよね。

祐一のことを信じきれなかったんですよね。

祐一にとったら、辛いですが、彼の希望通りかもしれませんが、

この最後に信頼することができなかった

愛情にも、なにかぐっとくるものがあります。

結局は、祐一が罪をすべてひとりで被り、

世間から「悪人」としてこの先

光のない人生を獄中で送ることになる

悲しい結末に、読んだ後もずっと心が苦しかったです。

 

 

書けば書くほど、暗くなりましたが、

本当に深いいい小説でした。

しっかり腰を据えて読む小説です。

自分の中に住む「悪」を意識しながら

他者への愛情や信頼というものを

信じる大切さや儚さをこの作品を

通して、学ぶことができた気がします。

 

次は「怒り」も読んでみようと思います。

 

 

 

最後までご覧くださりありがとうございました。

Happy Reading♩